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過去のどんな恋よりも PAGE1

last update 最終更新日: 2025-11-19 13:13:00

 わたしはまずはコーヒーにスプーン二杯のお砂糖とミルクを入れ、かき混ぜて一口飲む。やっと目が覚めたような気がした。

「――社長、朝食は召し上がってからいらしたんですか?」

「うん。いつもはけっこうガッツリ食べてくるんだけど、今日は二日酔いだから軽めの和食にしてもらったの」

「そうですか」

 お姉さんみたいな村井さんに訊かれ、わたしは素直に答えた。わたしは長女なので、姉という存在にはちょっと憧れていたのだ。兄代わりの人なら二人くらいいるのだけれど……。野島さんとか、平本くんとか。平本くんは四月五日生まれのわたしより誕生日が遅いけど。

「――社長、頼まれていた件、リストアップしておきました。こちらです」

「ありがとう。……ねえ野島さん、昨夜わたしが酔っ払って言ったことなんだけど……。ホントに憶えてない?」

 野島さんからプリントアウトされたリストを受け取り、仕事を始めたわたしは野島さんの顔をチラチラ見ながらまだ自分のデスクに戻っていない彼に訊ねた。

「…………えっ?」

 彼は面食らっているけれど、最初に空いたが彼の本心と葛藤かっとうを物語っているような気がしてならない。

(この人、ホントは憶えてるんじゃないのかな。なのにどうしてこんなにすっとぼけてられるんだろう?)

「……ごめん、やっぱりいい」

 もし彼が本当は憶えていたとして、わたしがお酒に頼らないと好きな人に告白もできない女だと思われてしまうのも心外だ。とりあえずこの話題はお預けにして、別の話題に切り替えた。

「ねえ、わたし今日口紅の色変えてみたんだけど、どうかな? あと、今日のコーデも。派手じゃないかな?」

 初めてのデートだからと張り切っては見たけれど、わたしの気合いが空振りしてはいないか心配になった。

「いいんじゃないですか、そのお色。ステキだと思います。お洋服も上品でよくお似合いですよ。ねえ、野島くん?」

「はい。どちらも今日のために選ばれたんですね。ステキです」

「うん……、ありがとう」

(今日のためっていうか、ホントは野島さん、あなたのために選んだんだけどね)

 好きな人と、初めて二人だけでお食事する。そのためのオシャレはたとえ二日酔いで寝坊したとしても絶対に手を抜きたくなかったのだ。

   * * * *

 ――何はともあれ、いつもより短い時間で午前の仕事はどうにか無事に終わり、今
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